2011-02-09

コープソリューション掲載記事3  樹恩割り箸

森と福祉と生協のかけはし
-大学生協が応援する樹恩割り箸―
 2010年6月16日 生協研究家 西村一郎
会津田島の割り箸工場
 梅雨に入る前の暑い日であった。浅草駅を早朝に出た東武電車に乗って北上し、鬼怒川を経て緑の谷間をぬって会津田島駅に着いたのは、4時間ほどたっていた。駅で迎えのバスに乗り、10分ほど走った場所にNPO法人あたごが運営する共同作業所があり、その一棟が割り箸の製造所となっている。他の見学者約20名と一緒に、施設の渡辺理事長から説明を受けた。
「私たちは町行政のバックアップを受けていますので、町の森林に放置してある杉の間伐材を無料でもらってくることができます。町の90%以上が森林に覆われ、たくさんの間伐材がありますので、割り箸の材料に将来とも困ることはないでしょう」
直径が20cmから30cm近くで長さが1mほどの丸太が、新しい作業所の外に山積みしてあった。
「丸太をまず45cmに機械で切り、そのうえで皮を器具ではぎます。次に斧で丸太を半分に割り、木目の並び方を確認してから、それに沿って板にスライスします。こうすることによって割り箸をより強くすることができます。それを数日の間自然乾燥させてから、機械で割り箸の元となる形にし、今度は機械で10時間以上も乾燥させます。そのうえで曲がりなどを1本ずつ点検して、合格したものだけを割り箸の製造機に入れて完成させます。最後の検査を含めて途中のいくつものチェックなどを、障害のある方にも参加してもらって製品化をしています」
工場によって割り箸の製造方法は異なるが、ここではかなり手間隙をかけて進めていることがよくわかった。これだけ丁寧に作業して、経営的に大丈夫なのかとふと心配になったほどである。ところでNPO法人あたごの共同作業所には、障害をもった18名の利用者が通い、この割り箸の製造においても、寸法や曲がりの検査や梱包などの簡易な作業に関わっていた。
写真1 -樹恩割り箸工場(NPO法人あたご)

樹恩割り箸
NPO法人樹恩ネットワークは、学生を中心にして森林と都市をむすぶことを目的に1998年に発足した。その第12回目の総会がこの会津田島で開催となり、イベントとしてあたご共同作業所の割り箸工場の見学があった。
ところで大学生協連は、1995年の阪神淡路大震災における支援活動を通して、徳島県三好郡の林業関係者との協力関係ができ、これが樹恩ネットワークの設立へとつづく。他方で大学内の生協食堂から出る廃水などをできるだけ削減するため、「大学食堂のゼロエミッション構想」を策定し、割り箸についての関わり方を検討してきた。こうした議論を基にして、樹恩割り箸は誕生した。
 この樹恩割り箸は、森林の中に光が差し込むようにするため、密に植えた木を間引きした際に生じる間伐材を使用していることが特徴である。大半の間伐材は有効利用されておらず、多くが伐採後に山で放置されていた。この間伐材を割り箸に使うことで資源の有効利用につながり、
大学生協の呼びかけて樹恩ネットワークが、森林保護のひとつとして間伐材を利用したオリジナルの割り箸の製造をスタートさせた。1998年のことで、その最初に委託した工場が徳島県の池田にあるセルプ箸蔵(はしくら)である2001年には「間伐・間伐材利用コンクール」において「間伐推進委員会中央協議会会長賞」を受賞した。
 樹恩ネットワークの出した以前のチラシには、その割り箸について以下のように触れている。
 「日本の森林を守るために間伐材・国産材を使うこと、障害者の仕事づくりに貢献すること、食堂の排水を減らすこと、この3つをもって樹恩割り箸は生まれました。現在、徳島・埼玉・群馬の知的障害者施設で製造され、全国60以上の大学生協食堂などで利用されています。つくる人の顔が見えて安全な樹恩割り箸は、まさに都市と山村を結ぶ「かけはし」となっています」
 現在は樹恩割り箸の利用が増えて3工場だけでは間に合わなくなり、2010年の春からは全国7ヵ所の工場で製造し、その5番目の工場が今回訪問したあたご共同作業所である。
  写真2 樹恩総会

日本の森林は
 日本の森林は国土の約68%を占めるが、各地で下刈りや間伐や枝打ちといった手入れがされずに放置されて荒廃し、多くの問題が発生している。ところで森林は樹木の供給だけでなく、公的機能として山地災害防止36.7兆円、水源涵養27.1兆円、大気保全5.1兆円、保健休養2.3兆円、野生鳥獣保護3.8兆円の価値があり、年間で実に75兆円もの評価額があるとのことである。
 それだけ人々は貴重な恩恵を森林から受けているが、そうした関係を正確に理解している人はごくわずかであろう。森林の手入れが充分にされず、公的機能を出しにくくなっている。安価な外材の膨大な輸入や、山村の過疎化や高齢化に伴う林業従事者の減少が主な原因である。使用する木材の8割以上を外国から輸入し、割り箸でも同じで日本における割り箸の消費量は毎年約250億膳にもなり、国民1人に平均すると約200膳も使っているが、その約97%は輸入である。そのため国内産の割り箸は、一部の高級品を除いて事実上壊滅状態となっている。
中国産の割り箸が1膳で約0.5から0.8円に対して、日本産は2.08円と割高であることによる。こうして今も日本は、中国を中心とした外国に過度に依存しているため、それらの国では無理な伐採が続き森林が減少し荒廃している。自分の国の森林を管理せずに、他国の森林を破壊し続けているのが残念ながら今の日本である。
そうした中で疲弊する森林を守るための取り組みがいくつか進み、樹恩の割り箸もその1つであり、生協の社会的役割からも、大学生協だけでなく地域生協など他の生協も、もっと森林を守る取り組みを強めることが大切である。

日本の福祉は
 樹恩割り箸のもう一つの特徴は、心身にハンディキャップのある人の自立と社会参加にも役に立っていることである。
ところで平成21年度における民間企業(56人以上規模)の障害者雇用率は、法定の1.8%に対して、前年比で0.04ポイント上昇したとはいえ1.63%で、法定雇用率を達成している企業の割合は45.5%である。生協におけるデータがないので推測の域を出ないが、おそらく同じ傾向ではないだろうか。各生協でも、最低でも法定の率を1日も早くクリアすることが求められる。

 こうしてみると大学生協が全面的にバックアップする樹恩割り箸は、まだ規模が小さいとはいえ
森と福祉と生協のかけはしとして、大きな社会的役割を果たしつつある。

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