2011-02-09

コープソリューション掲載記事5 福井県民生協のネットワーク事業戦略

福井県民生協のネットワーク事業戦略         2010917
                           生協研究家 西村 一郎
福井県民生協を訪ねて
 1978年創業の福井県民生協は、2009年度に組合員が12万8945人となり、世帯加入率はすでに46.7%と全国的にも高い水準になっている。食品の県内販売シェアは7.3%にもなり、県内第2位である。
 2007年度に日本経営品質賞を受けた福井県民生協は、「組合員の満足と、地域社会のために」を基本理念とし、使命は「食の安全とくらしの安心で組合員へのお役立ち」と位置付け、「組合員と職員が力をあわせて、食の安全、暮らしの安心、新しいビジョンづくりを進めましょう」をみんなのスローガンとし、そのバランスの良い経営が高く評価された。
 こうした経営理念を事業へ着実につなげ、2009年度の各事業部門は下記のように伸張させている。
 総事業高    196.3億円 前年比 101.3%
   無店舗事業 116.9億円      98.4%
   店舗事業   70.7億円     110.6% SM6店、09年度に1店
  共済事業     6.2億円     105.2%
  福祉事業     6.0億円     122.7%
 世界的な金融不況による日本経済の落ち込みや、県民の人口減の中での伸張である。一般的な取り組みだけでは、なかなか達成できる数値ではない。福井県民生協の経営戦略におけるキーワードの1つがネットワーク事業であり、その実態や課題についてたずねた。

ネットワークの理念
 福井県民生協では、事業にせよ運動にせよ、生協内の縦割りの業態や部署だけで対応するのでなく、組合員の暮らしや地域に目線を当てた協力体制を組み、さらには行政やNPOとも連携し、社会的な役割分担を担っている。
竹生(たこう)正人専務理事から、ネットワーク事業の位置付けについて説明を受けた。
「私たちの組織がめざす理想的な姿は、組合員の満足と地域社会のために、『食と福祉と助け合い』の事業と活動のネットワークによるシナジー(相乗)効果を発揮し、健康長寿で安全・安心な福井づくり、組合員と職員の協働の力で高い志を持って挑戦し続けることにしています。
食の分野では無店舗・店舗・移動店舗の3つの事業があり、福祉分野では高齢者介護で訪問介護など7つの事業があり、また子育て支援でひろばなど4つの事業、助け合いの分野では女性対象共済など3つの事業があり、これら17の事業のネットワークによって、組合員へのお役立ち度を向上させることです」
こうした事業をネットワークすることは、以下のように「福井県民生協の大切にしたい考え方」にも反映されている。
(1)事業ネットワークの展開と進化をとおして組合員満足の最大化をめざします
(2)事業ネットワークを支える食の安全と暮らしの安心システムの構築をめざします
(3)事業ネットワークの展開を支える人財の育成を進めます
(4)事業ネットワークを広げる経営の革新に取り組みます
これら事業ネットワークの中核をしめるのは食の分野であり、地域によって表のように3つのエリアに区分しドミナント形成を進めようとしている。
 表 食分野の事業ネットワークとドミナント形成


区分特性
地域浸透度(県民加入率)
エリア
ドミナント1
店舗出店エリア(都市部)
70~90%
6→10商圏単位
ドミナント2
移動店舗展開エリア(郡部、中山間地域、海岸地域)
50~70
3→15コース単位
ドミナント3
無店舗展開エリア
40~50
全体エリアの40%へ

ドミナント1には、福祉分野の介護事業と子育て事業を対応させ、ドミナント2では介護のみで、ドミナント3に福祉分野は含めてない。もちろん全てのドミナントに共済を対応させ、こうして地域の条件に応じたネットワーク事業を予定している。

組合員のレベルに応じた個別の対応
竹生専務の話は続く。
「以前は事業の都合で分けた業態別に組合員の利用をみていましたが、1人の組合員が年間で生協において利用する総額によるグループ分けをしました。年間の利用金額によって10万円台はステップ10、平均的な20万円台はステップ20、30万円台はステップ30、40万円台はステップ40、そして高額な50万円以上はステップ50とし、組合員を抽象的に全体として捉えるのでなく、一人ひとりの動向を把握して生協の対応を考えることにしたのです。
この区分でみると、ステップ30以上のコア組合員は、人数構成比では21%ですが供給高では59%をしめ、経営的にもこの組合員に支えられています。つまり一律の対応でなく、コア組合員を増やすことが大切なわけです。ステップ40や50の組合員は、生協への信頼や参加意欲が強く、高い利用を維持しつつ利用の参加から活動や運営への参加へとすすめます。ステップ30が利用では要注意で、店舗または無店舗の利用が減少すると、すぐにデータにシグナルが出て地域の担当者が訪問するようにしています。一番多いステップ20では、30へと引き上げることがポイントで、定時職員を中心にした20名の組合員サポーターが対応しています」
つまり年間の利用高に応じて割り戻し率が増え、20万円未満の通常還元率よりもステップ20で0.15%、30で0.30%、40で0.6%、50で1.0%とそれぞれ加算されるから、利用の高い組合員にとって魅力的である。
各自の合計の利用高は月単位で管理し、組合員サポーターがその組合員を訪ね、商品や店舗のサービスだけでなく、日ごろの暮らしで困っていることを聞いている。たとえば組合員の家族に高齢の方がいて、何か介護で困っていることがあれば、生協の介護事業を紹介することもできる。こうしてネットワーク事業による相乗効果を高めている。
さらにコアな組合員をさらに広げるため、福井県民生協の中に事業ネットワーク本部を2008年に設立し、そこに店舗や無店舗や福祉などといった各業態をぶら下げる組織とした。
 しかし、組合員の活動と生協の事業は、別々に存在するのでなく密接に関連している。そこで事業ネットワーク本部と組織ネットワーク本部の連携をより強めるために、2009年に地区支援本部を新設している。ちなみに福井県内を3つの地区に分割し、福井市や県北を中心とした第一地区、鯖江市など南部の地域を中心とした第二地区、敦賀や若狭を中心とした第三地区で運営している。
 ネットワーク事業を活かすためにも、この地区単位での運営を福井県民生協は重視している。全体の方向を一本化して打ち出すことはできても、地域によって食文化や行政の動きが異なることもあるし、生協が経営する店舗の有無の違いもあれば、なによりも組合員の暮らしに違いがある。このため以前の一律的な本部主導型から、ネットワークを活かして地域への小まめな対応を可能にする地区主導型へと変更している。

 移動店舗事業の挑戦
 2009年からスタートさせた移動店舗は第3の供給事業と位置付け、福井県民生協における組合員と地域社会への新たな貢献を拡げつつある。3tと2tのトラックを使って荷台に冷蔵庫や冷凍庫も設置し、肉・魚・乳類販売の許可をとり、近くの店舗から生鮮商品を積み込んで店舗の商圏外にいる組合員を対象に、1台で1日に10から15ヵ所を移動し、運転手とレジ係りの2名で販売している。
 ここでの目的は、第一に組合員満足度の向上であり、そこでは①店のない地域で店の商品を供給する、②併用組合員や組合員の拡大、③買い物が不自由な高齢者への支援がある。第二に職員満足度の向上で、無店舗や店舗や福祉事業を具体的に推進する職員育成の場としている。第三に経営への貢献であり、初期投資が少ないので事業直接剰余は2年目で黒字にし、3年目には経常剰余率2%を予定している。
 こうした移動店舗事業の車は、2009年の3台から2010年は8台とし、2014年には20台で週に9000名の利用を目標にしている。店舗と無店舗事業の間に位置する新たな業態であり、今後の展開が楽しみである。 

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