2011-04-05

コープソリューション掲載記事11 生協における減災の取り組み

生協における減災の取り組み      2011年2月19日 生協研究家 西村一郎
はじめに
 巨大な岩石層であるプレートが複数重なった上に位置する我が国では、人体に感じないものを含めると、ほぼ連日のようにどこかで地震が発生している。1995年の阪神淡路大震災や2004年の新潟県中越地震などによる大きな災害は、まだ記憶に新しい。さらに地震調査研究推進本部の発表によれば、向こう30年以内に地震の発生する確率は、宮城県沖や茨城県沖で9割をこえ、南関東や東南海では7割程度などにもなっていて、いつ発生してもおかしくない。
 このため生協においても地震対策が、事業だけでなく組合員にとっても大きな課題となっている。ところで災害への対策は防災の用語を一般に使っているが、こと自然現象である地震を完全に防ぐことは無理であり、災害を減らす意味でより正確には減災が妥当であり、生協ではこちらも使用している。
 生協での地震に対する減災の取り組みを大別すると、組合員を主体にした「わがまち減災・MAPシミュレーション」と、生協職員を主体にして事業面で対応する図上演習がある。日本生協連に専任の防災担当を配置し、阪神淡路大震災などからの教訓も含め、どちらにもきめ細かなマニュアルを作成して全国で普及させている。その内容は生協外でも高く評価され、内閣府からの期待だけでなく、2009年に国連の出版物でも紹介されている。ここでは、組合員を主体にした「わがまち減災・MAPシミュレーション」の取り組みに触れる。

「わがまち減災・MAPシミュレーション」とは
 いつかはやってくる地震が発生したときに、住んでいる地域で迷わずにすぐ行動できるように図上で訓練することが目的である。
 そのため地域の詳しい地図に自宅や避難場所などを記し、どこにどのような助けのいる人がいるのか、自らにはどんな助けが必要なのか、近所の人たちと助け合いながらどう避難すれば良いかなどについて、確認しつつ独自の地図を作成していく。
 これをもとにして安全に避難場所へたどり着く方法や、外出している家族が帰宅できないときにどう対応するかなど、災害時を具体的に仮想体験する。そのことで自分を自らが守る自助や、共に助け合う共助をより理解し、万が一のときに落ち着いて行動することができるようになる。

準備として
 まず用意するのは、①参加者の家と避難場所の載っている地図、②地域の行政が配布している防災(ハザード)マップ、③地図の上に敷きマーカーで記入できる透明シート、④川や路線を記入するホワイトボードマーカー、⑤メモ用紙と筆記用具、⑥付箋と丸いシールのカラーラベル、⑦ハサミである。また5~8人ほどで1つのグループをつくり、進行役のリーダーと記録係を各1名選出しておく。
 本番に入る前に、5分を目安にウオーミングアップする。第一に、「10秒後に震度6強の地震が来る!」と言われたとき、どう対応するか1分以内でメモをしてもらい、数名に発表してもらう。ちなみに震度6とは、家の壊れる割合が30%以下で、がけ崩れや地割れの起こる烈震である。
第二に、実際の大震災がどんな様子であったのか写真や映像を見てもらい、意外と近隣者が助け出すケースや、家屋や家具による圧死の多いことなどを知ってもらう。
 こうして日頃の準備と地震に対する正確な知識があれば、わずか10秒の間でも助かる可能性を広げることのできることを、一人ひとりがまず自覚することである。

まちの地図づくり
 いよいよまちの地図づくりで、目安の時間は30分である。第一に地域の地図の上へ透明シートを乗せ、自分、一人暮らし、赤ちゃん、寝たきり、障害者、外国人の家などに、それぞれの色を決めてカラーラベルを貼る。災害の情報が流れにくい人や、自分の力で動くことの難しい人への配慮が大切となる。第二に、地図にそって線路や車道や川などを、カラーマーカーで使いわけてシート上になぞる。第三に防災マップから、避難場所、防災倉庫、病院、危険箇所などの主要な場所を拾い、マーカーで地図の上のシートに書き込む。
こうして完成させた地域の地図を見て、第四に各自が感じたことをメモにして数名から発表してもらう。

減災シミュレーション
 第一に、地震が発生したとして、自宅から避難所までの行程を地図上で演習する。リーダーは、あらかじめ作成しておいたシナリオに沿って、地震発生、3分後、15分後、40分後の状況を報告する。なお日本生協連ではシナリオについて、都市型、中山間部、海や川沿いの詳しいサンプルを用意しているから便利である。刻々と変わる被害状況の中で、どのようなルートで避難するかその都度判断する。
 第二に、参加者の各自はどのような道を通って避難したか、足跡を地図の上に残してもらう。リーダーは、避難が終了した頃を見計らって、障害者、寝たきりの人、赤ちゃんのいる母親、独居、外国人などに声をかけて避難したかたずねる。多くの参加者は自分の避難に気をとられ、災害弱者といわれる人たちに声をかけることは少ない。
 こうして約30分で避難所までたどり着くシミュレーションをおこなう。

シミュレーションを終えて
 図上の演習を終え、15分かけて振り返りをする。第一には、先ほどまでのシミュレーションを思い出し、感じたことをメモにする。リーダーの問いかけは、①情報を基に、適切なルートで避難所へ行くことができたか、②地域の危険な場所を認識できたか、③近所の弱者を気遣うことができたか、④グループ内で互いの意見を尊重しあうことができたかである。
 第二には、阪神淡路大震災で生き埋めなどが発生した際に、隣り近所の人たちが救出したのは80%で、消防署員や警察や自衛隊など行政機関の人たちによる救出は20%にも満たない事実を指摘し、近隣による助け合いの共助の大切さを指摘し、参加者に考えてもらう。

避難所での動き方
 25分使い、避難所に行ったときの動き方を演習する。第一に、各地から来た沢山の方が騒然としている避難所で、いったい何をするのか各自に聞き発表してもらう。ところで避難所は学校の体育館などで、数百人規模になることも多く、行けば誰かが世話をしてくれるわけではない。そこで第二に、自分で自分を守る自助や、共に助け合う共助について、自分でできることを自主的にそれぞれが考えなくてはならない。
 例えば支援に届いている各種の材料を使い、大事な食事作りがある。手軽に料理ができて全員が早く食べることはもちろんだが、さらには高齢者や障害者などにも配慮することが大切である。また障害を持った人や赤ちゃんのいる人などが、くつろぐことのできる空間を確保することも重要である。体育館などの避難所では、1人1畳を目安に割り当てられるが、段ボールで仕切りをするなどの独自の工夫が必要なときもある。他にも情報の収集、広報、掃除、整理、品々の配布など、避難所ですることはいくらでもある。

課題は
 こうして全国の生協で図上訓練が広がっており、組合員だけでなく職員も含めてさらなる拡大が期待されている。そこでの課題を考えてみた。
 第一に、図上訓練をする場のさらなる拡大である。各地で実施しつつあるが都道府県レベルでの実施が多く、これを市町村やさらには学校区単位にまですると、より効果的である。減災への自覚を高める情宣活動などは、継続して強化することが求められている。
 第二に、隣り近所間の人的繋がりの強化である。近隣者の手助けこそが災害時に一番効果があることは、阪神淡路大震災のときも実証ずみである。
 第三に、食事や寝る場所などの物理的な支援と同時に、精神面での支援も大切である。特に社会的弱者は、震災によってさらなる精神的ストレスを受けるので、親身になっての相談やアドバイスも重要である。
 第四に、町内会で防災訓連を実施した私の経験からすると、図上訓練にとどまらず、ぜひ実際に歩いてみることも重要である。図上では解らない危険な場所がいくつもある。
 日本のどこでも大震災がいつ発生してもおかしくない今日、減災において生協の果たす役割はますます高まっている。

*写真のキャプション
地図を囲んで防災施設等を確認する参加者

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