2011-02-27

フィリピンの旅2

 2泊の山奥から、ふもとにある小さな町に戻ってきた。順番にどう行動したか記録しておく。
 まずは村に入るまでの風景。

2011-02-24

2年ぶりのフィリピン

22日の夕方6時に成田をたち、10時過ぎにフィリピンはマニラ空港につく。時差はマイナス1時間で時差ぼけはないが、温度差約20度ありムッとした外気に触れる。
 タクシーを使ってホテルに入る。2年前と同じようにホテルの前の道路では親子の家族が何組も寝ている。ツアーのメンバー7名で簡単な打ち合わせをし、すぐに部屋で休む。
 23日の朝8時に、4名だけで先にバナウエイを目指す。9時まえにバスに乗り、ソラノに着いたのはすでに5時。それからジプニーを2回乗り継いで、目的のバナウエイに着いたのは7時半になっていた。暗くて世界遺産のライステラスをみることができない。すぐに相川夫妻とエドワードで夕食し、疲れていたのですぐに寝る。いつも以上に寒く、少し喉が痛くなり、ベッドでやむなく寝袋も使う。
 24日の朝に後から来たメンバーと合流し、昼食の後で故メイヤー博士の墓に行き、線香を灯してお参りをする。いつものことながら私はにわか坊主になり、暗誦しているお経を読む。
 その後はトライスクルに分乗してライステラスのビュウポイントへ。天まで届くライステラスがすこにあった。明日からの食料を買い、今日の準備は終わった。

2011-02-21

2年ぶりのフィリピンへ

 明日22日から3月4日まで、フィリピンはルソン島へ。加わっているNGO「ストリートチルドレンを考える会」のスタディーツアーで、山奥にあるアバタン村での交流と、マニラでのストリートチルドレンたちに出会う旅である。参加者は7名。中でも高齢で病気の相川夫妻が、ぜひ無事に帰ってきてほしいものだ。
 私にとっては、前半のアバタン村がメイン。2000年当時には電気がまだなく、240万円集めて小型の水力発電装置を、地元の人々やNGOにも協力してもらって設置した。それ以来、何度も訪ねている山村である。成田からマニラまでは5時間ほどだが、そこからが遠い。ふもとの小さな町まで丸1日かかり、そこで1泊して市場で買出しをし、ジプニーで山道を2時間ほど登り、そこからは徒歩で村へと向かう。村では3日の滞在だが、帰りも同じ行程なのでそれは時間のかかる旅となる。
 今回も寝袋を持ち、風呂もない村での2泊の自炊生活である。日本では経験のできないことがいくつもできるので楽しみだが、いつもどんなに防御策をしても強力なダニに喰われることが唯一の悩み。
 まあ、どうにかなるだろう。
写真は、フィリピンとまったく関係のない上野は寛永寺のあるお堂。なかなか味のある雰囲気を醸していた。

2011-02-11

金子みすゞの展示会

 2月10日に日本橋三越で開催中の「金子みすゞ展」に行ってきた。平日の昼間にもかかわらず、会場は大混雑。年配の女性が多く、たくさんの展示を観ていた。中には白い杖を持った人の傍で、ひとつひとつを解説している方もいてファンの幅の広さに驚いた。
 南医療生協のキャッチフレーズにも使っている「みんなちがってみんないい」と結んだ代表作の「私と小鳥と鈴」や、「こっつんこっつん、打(ぶ)たれる土は」ではじまる「土」など、よくこれだけの大きな世界を簡潔にまとめあげたと驚く。
 みすゞの生まれ育った山口県先崎の町並みや地図なども展示してあってながめた。5年ほど前に妻とある安いツアーで先崎を訪ねたことがある。みすゞ記念館による時間はなかったが、静かなたたずまいの町並みを見ることができ、みすゞの過ごした時代を偲ぶことができた。
 と同時に私にとって先崎は、かつて朝鮮から強制連行された方たちが、第二次世界大戦後に開放されて日本から帰国するとき集まった港として印象深い。競い合って小さな漁船を借りて、朝鮮の釜山を目指した。ところが老朽化した船や、台風などの影響もあって難破した船が少なくない。このため犠牲になった方々が少なくない。

2011-02-09

コープソリューション掲載記事10 大学生協の2011年チャレンジ   

大学生協の2011年チャレンジ  
2011年1月17日 生協研究家 西村一郎
 1月14日に大学生協連の新春懇談会があり、当面する大学生協の諸課題について報告があった。全国で展開する大学生協は、すでに組合員数は150万人をこえ、年間の供給高は2000億円にも達し、組合員や大学からの指示を広げつつある。しかし、国際的な金融危機などは、日本の大学生協の経営も悪化させている。こうした中で大学生協は、どのような道筋を描いているのだろうか。

  大学生協は地球市民育成の場
庄司興吉会長理事より、「地球市民社会と大学生協の役割」と題して大学生協の社会的役割のマクロ的な話があった。9.11から始まったテロとの戦争や、2008年のリーマンショックなどにより、アメリカだけでなく国際社会は大きく揺れ動いている。そうした中でG8からG20に代表されるような新興国の台頭が進み、政治経済主体の対等化と同時に、市民民主主義の普及が著しい。そこでは市民が国家を通じて金融資本を規制しつつ、自らの事業を広げていくことが重要になり、そのもっとも有力な形態が協同組合である。
大学生協は日本における協同組合の源流の1つであり、国際的な感覚を持って21世紀を背負って立つ地球市民の育成の場となっていく。こうした大学生協で学んだことを基礎として、たくさんの社会的協同組合が各地に広がり、日本を協同・協力・自立・参加の社会にしていくという夢を語っていた。
国際化がますます進む中で、世界を視野に入れた地球市民の存在がますます大切な時代となり、そのための学びの場が大学生協の役割であるとの指摘は深い意味がある。

・大学生協連の2011年テーマ
 次に大学生協連和田寿昭専務理事から、「2011年のテーマ」と題して事業課題の報告があった。昨年12月の総会には全国から950名が参加し、「大学と協力し学生支援の輪を広げ、組合員の参加と協同で学生の成長を育もう」とのテーマを確認し、それに基づく2011年の取り組みである。まず高等教育における大学生協の役割として、学生支援と当面する大学の課題を見極めつつ、生協として責任をもって対応できる事業領域を設定している。
 学生支援では、勉学や研究の支援・キャリア形成・奨学金・住まいの斡旋・教科書や教材の提供・心身の健康管理・購買・食堂・留学生支援がある。他方で大学の課題では、勉学研究の高次化・学生の就職・外部資金の獲得・地域社会との連携・入学定員の充足・退学者の削減・留学生の受け入れや派遣などがある。
こうした大学の中で生協としては、学生の成長支援・学びやキャリア支援・仲間づくり・勉学研究用品の提供・食生活応援・大学業務の受託・留学生支援で役割を発揮し、大学の魅力づくりに貢献するとしている。激変する大学において、生協の役割を多面的にとらえて発揮することは大切なことである。 

・共済の取り組み
 生協法の改正によって、2010年に共済部を独立させて大学生協共済連を発足させている。その濱田康行会長理事の挨拶と小野寺正純専務理事からの報告があった。
 全国で64万人が加入し、1年間の支払いは30,545件で236000万円にもおよぶ。件数で多いのは、事故通院、病気入院、手術、事故入院、父母死亡見舞金などである。
学生共済には、3つの助け合いがあることを強調している。1つ目は「もしも」のときで、病気や事故になったとき共済を通して多くの仲間が助けてくれる。2つ目は「もしもにならないため」で、病気や事故に合わないために健康維持や身の回りの安全について学びあうことである。3つ目は、「もしもにならなくても」困った仲間を助け合うことにつながる。
この2つ目と3つ目が、保険にはない共済だけの特徴である。「健康安全&事故防止」活動の具体的な取り組みとしては、第一に健康安全を呼びかけるものとして、健康チェック企画・メンタルヘルス・イッキ飲みやアルコールハラスメント防止・防災対策・食生活相談会・スポーツ企画・自転車やバイク点検などがある。第二に健康で安全な学生生活について考えるために、給付事例の学習会や報告をおこなっている。第三には共済活動について学びあうことで、全国や各地で共済セミナーを開催している。
思いがけない病気や事故による出費を学生共済によってカバーするため、協同組合の原点に立って助け合いの輪を広げている。

  学生の参加
組合員の大半をしめるのは学生であり、その代表として全国大学生協連の北橋達也学生委員長から、「大学生協を通じた学生の参加」のテーマで報告があった。そこでのキャッチフレーズは、「つながる元気、ときめきキャンバス」である。組合員の願いに基づく店舗や活動にするため、組合員の声による店づくりや商品開発もあれば、組合員の生活に基づく学習や交流などもある。
こうして自分たちの大学生活をもっと盛り上げようと、自主的に活動している学生委員は全国に8900名もいる。
具体的な活動は、①健康安全・食育、②キャリア形成支援、③環境活動、④平和・国際交流活動である。健康安全では、食生活診断サイトや自炊の冊子を作るとか、栄養士と協力して食生活相談などがある。キャリア形成支援では、友達と一緒に楽しく英語を学ぶTOEIC勉強会や、先輩による体験談とアドバイスをする就職活動サポートもあれば、増える留学生との交流を通して異文化に触れるTea Partyも開催している。環境問題では、不用品を再利用するリユース市や、ペットボトルのフタを利用するエコキャップ活動などがある。また平和・国際交流活動では、広島や長崎や沖縄を訪問して学びあう「Peace Now!」や、平和の折鶴作りなどがある。
学生の組合員が仲間と協力して実践し、自らの力を育んでいることは素晴らしい。

  さらなる大学生協の役割を発揮するために
厳しい経営環境の中でいくつもの創意工夫をし、事業や運動の領域を広げている。生協や組合員の数が増えていることは、社会からの期待に大学生協が応えている証拠として評価してよいだろう。それを前提にしつつも、しかし私には、大学生協や事業連合の現状をみるといくつか気になることがある。
第一が、PDCAのマネジメントサイクルが不充分でないかとの危惧である。将来の在りたい姿を示すビジョンを示し、そこに向かうための具体的な進め方であるアクションプランや中期計画があり、さらに年度の方針を策定している。それらにはいくつものマネジメントサイクルが存在するが、毎年のように減少し続ける共済加入者や、東京事業連合の2年連続赤字経営などは、マネジメントサイクルの特にC(点検)とA(対策)が、充分でないことを示しているのではないだろうか。
第二に、経営責任の所在にかかわる組織のあり方である。店の事業には、大学生協連の1部署である地域センターと、事業連合と各生協が協力しつつ関わっている。地域生協よりも早く事業連合の組織を各地に作った大学生協では、2010年に東日本の4事業連合を東京に集中させるなどその機能をさらに強めつつある。事業連合の機能強化によるメリットは大きいが、反面で事業連合に権限を集中し続けると、参加する会員生協の空洞化につながり、独自の課題を自らの意志と力で切り開くことが弱くなりやすいので注意がいる。
第三に現在の経営上の問題を、職員や労組と理事会がどこまで共有化できているかである。いくら素晴らしいビジョンや年度方針を作っても、一人ひとりの組合員に商品やサービスを通じて触れるのは、パートを含めた全ての職員であり、職員が「その気」にならなければ絵に描いた餅となりかねない。そうならないためには、全ての職員が経営の実態を共有化し、ビジョンや中計における自らの役割を認識することは何より大切である。
大学生協連の掲げた崇高なビジョンに進むため、こうした点での議論もぜひ深めていただき、全国の大学生協のさらなる発展を今後も期待したい。
  コープソリューション2011年2月号

コープソリューション掲載記事9 「みやぎ生協に期待すること」

「みやぎ生協に期待すること」 ー五方良しの経営めざしー        


          生協研究家  西村一郎
はじめに
 みやぎ生協労組主催のシンポジウムが2010年10月23日に仙台で開催となり、そのときパネリストの一人として参加させてもらった。そのとき私が報告した要旨が以下である。県民世帯の実に7割近くと全国一組織しているみやぎ生協であるが、店舗事業の赤字に代表される厳しい経営が続き、労組としても経営を含めた生協の在り方を議論しようとなった。そこでここまで大きく成長してきたことは高く評価しつつも、原点に立ち返ってこれからの進むべき方向を考えることが必要になっている。他の生協にも当てはまることが少なくない。

問題意識
 第一に、生協内に広がる思考停止である。増える大企業病やヒラメ職員と表現してもいい内容で、本部や上司からの指示待ち職員が増えている。過去の成功体験に安住することによって自己変革せず、かつ生協人同士の馴れ合いから「集団責任は無責任」な状態も一部に現れている。「大きいことは良いこと」として、いくつかの理事会や労組もしゃにむに合併を追及していることに私は疑問がある。規模の拡大によるマスメリットはある反面で、組合員の参加やガバナンスのあり方などで課題も多い。また中期計画などの方針書はきれいにまとめてあるが、それで職員や組合員がどう参画すれば良いのか不明確で、絵に描いた餅となっていることが少なくない。
第二に、変革の主体は職員や組合員の一人ひとりの内部にあることである。明治時代の初期に教育と訳したedukationの語源には、内部から引き出す意味があり、人々の発達する力は各々の内部にある。それを確信せずに、ごく一部のトップや外部のコンサルタントだけの力で変革しようとしても無理である。たとえりっぱな計画書を作成してトップダウンで実行させようとしても、職員の主体性を育むことにはならず、全ての職員が一丸となって実践することにつながらず、充分な成果は得られないことは、たとえばこれまでの日本生協連の作成したいくつものビジョンの経過を見れば明らかであろう。
 第三に、機能の集中と分散の使い分けである。たしかにシステムやバイイングなどの機能は、集中させることによって効果を高めることができる。しかし、地域社会との関係における権限などで、逆に分散させることの方が大切なものもある。
 このようにして、みやぎ生協だけでなく他の生協も、そのあり方の根底に関わる部分から見直さなくてはならない局面にきているとみてよいだろう。

原点回帰と動向把握
 こうした局面に立ったときに、すべきことは原点回帰と動向把握である。
 まず生協の原点では、生協法の第一条で明記してある「国民生活の安定と生活文化の向上」がある。みやぎ生協の原点としては、「わたしたちは、協同の力で、人間らしいくらしを創造し、平和で持続可能な社会を実現します」(めざすもの)がある。これらに対応するみやぎ生協労組の原点が問われている。
 次に動向把握である。一般社会として世界で、日本で、宮城県で、そして地域において、経済や人々の暮らしは、いったいどう動いているのかの認識することである。格差社会が拡がる中で、一人ひとりの自立や互助を大切にする生協が、社会からますます求められている。
 
暮らしは 
第1に高齢化である。生協組合員の平均年齢は2009年で53.1歳となっており、これは国民の平均年齢である44.3歳より8.8歳も高く、一般社会以上に生協の組合員における高齢化が進行している。同時に高齢化は、認知症の増加にも連動する。
第2は世帯の変化である。社会一般では単身者が増加して31%と一番多くを占めているが、生協ではわずか6%でしかない。逆に夫婦と子どもの世帯は、社会で28%に対して生協では46%をも占めている。
 第3は過疎化である。大都市への集中だけでなく、地方の県内でも県庁所在地への人口が集中し、山間地や島だけでなく旧市街地や古い団地などでも多様化した限界集落がすすみ、地域格差が拡がっている。
第4に買い物弱者とか買い物難民と呼ばれる人たちの増加である。交通の不便な山間地や島だけでなく、都心や中心市街地などで地元食料品店や日用品店の撤退した地区を意味する食の砂漠Food Desertが拡大しつつある。
こうした暮らしの変化の中で、たとえば移動販売車が走っている地域もある。鳥取県の江府町(こうふちょう 3,316人)では演歌を流しつつ1日に10カ所を回り、 1分で開店し30分間で生鮮を含め700種類を販売している。これに学び福井県民生協では、現在8台の車を走らせて地域から好評である。  

みやぎ生協職員の実態
2008年に生協総研で実施した「生協における働き方研究会」の調査では、以下のような数値でみやぎ生協における職員の実態が浮き彫りとなった。

第1に残業の多さである。正規の男性では、月に60時間~80時間が9.8%で、月80時以上でも7.3%いる。パートの女性は、毎日が14.8%と「ほとんど毎日」が24.1%と恒常化している。また委託では、月40時間~60時間で17.5% 80時間以上でも5.3%いる。
第2に仕事の満足感は、パートの女性で72.2%と一番高く、正規の男性では56.1%、委託では21.1%と低くなっている。 

第3に生協の将来ビジョンについてである。ビジョンについては、正規の男性で78%と女性の67%が、パートの女性の54%と委託の男性の35%が知っている。
 その評価では、生協全体でビジョンに向かっていると思うのは、正規の男性で37%、女性で67% パートの女性で54%である。職場の運営にビジョンが活かされていると思うのは、正規の男性32%と女性33%、パートの女性52%と低い。またビジョンが働きがいになっていると思うのは、正規の男性は39%、女性は67%、パートの女性は57%と低い。
このため生協で働くことを子どもや知人に薦めると答えた人は、正規の男性で24%、女性で50%、パートの女性で44と少ない。

経営哲学の確立
近江商人の経営哲学である「三方良し」(買い手良し、世間良し、売り手良し)になぞらえれば、生協の経営哲学においては、先の3つに働き手と作り手を加えた「五方良し」にすることが大切ではないだろうか。
第1に、買い手である組合員一人ひとりの暮らしを応援することである。現行の食や共済の提供だけでなく、介護や子育てや健康・医療での生協の役割発揮が期待されている。また組合員の主体性を高め自立を育むため、誰もが参加できる場の提供や、地域づくりへ貢献し、人と人のネットワークを無数に拡げることである。
第2に、作り手である生産者は、生協のパートナーとして大切である。高齢化した農家の平均年齢は2009年65.3歳となり、65歳以上は61%の177万人もいるから、このままでは農業の担い手が5年後には激減する。そこで生協による生産への関与で、大小の生協版農場を具体化してはどうだろうか。
第3に、働き手である職員の満足である。そこには、①仕事の満足としてやりがいや成長感や自分らしさや認知、②職場の満足として課題に対する姿勢や安心感や一体感、③上司の満足として判断や業務指示の信頼やコミュニケーション、④生協の満足としてトップへの信頼や人事・労働環境の満足がある。ところで
生協における働きがいの3要素として、自らの意思で考え判断して主体的に働くことや、協同組合としての生協や職場や仕事であること、そして組合員からの感謝や励ましがある。
 第4に、世間良しとしての社会貢献である。組合員の暮らしを応援するため
生協版社会インフラを創り、食、健康・医療、保障、仕事、介護、子育てなどで生協ならではの役割発揮である。暮らしを応援する商品やサービスの提供はもとより、事業ネットワーク   によって複数の事業で地域に応じて展開し、また班をコミュニティの基礎単位として再構築し、こうして地域作りへ貢献することである。
第5に、売り手としての生協の経営である。組合員や地域の求める商品やサービスの開発、本部経費の削減、連帯組織では事業連合や日本生協連は裏方に徹すること、店舗事業の改革では原則の徹底を図り、組合員による事業参加や人材育成では、特にミドルマネジャーの育成が急務となっている。
 (コープソリューション 2011年1月号掲載)




コープソリューション掲載記事7 「孫の二乗の兵法」から生協が学ぶこと

「孫の二乗の兵法」から生協が学ぶこと
                             生協研究家 西村一郎
「孫の二乗の兵法」とは
 ソフトバンクの孫正義社長が後継者を育成するため、20107月にソフトバンク・アカデミアとして戦略特別講義を開催した。そのときのテーマが、孫子の兵法と孫正義の考えを掛け合わせた「孫の二乗の兵法」である。具体的には、以下の25の漢字で表現した文字盤に示した経営指針であり、孫正義の経営哲学といってもいいだろう。
 IT産業における経営戦略ではあるが、組織を動かすポイントにあふれ、生協に引き寄せても参考になることがいくつもある。表のような5段階で、上から理念→ビジョン→戦略→将の心構え→戦術となっている。  表



理念
 戦いに勝つための条件として、『孫子の兵法』であげている道・天・地・将・法であり、事業を行う生協にとっても大切で、一番の基礎を構築する部分である。社会的に存在するため、何にこだわって事業を経営するのか明らかにすることでもある。
 まず「道」でソフトバンクにおいては、「情報革命で人々を幸せに」するとしている。事業組織の大義名分であり、生協に当てはめると生協法第1条(目的)の「国民生活の安定と生活文化の向上」になるだろう。
 「天」は天の時であり、孫は情報ビッグバン・マイクロプロセッサー・インターネットをあげている。時流に乗ることであり、生協にとっては格差社会の拡がりによって、協同による助け合いの必要性がますます国民の間に高まっている時代を指す。
 「地」は地の利を指し、2015年にインターネット人口がアジアで26億人となって、世界の半分を占めるとしている。生協にとっては、定款に定める地域を熟知し、まさに地の利を活かして事業を展開することが重要である。合併の議論においても、地の利を活かすことができるかどうかは大きなポイントの1つである。ちなみに「天の時」と「地の利」に「人の和」を加えて、成功の3条件と言う。
 「将」はリーダーのことで、優れた将を得ることを孫は強調する。適任者がいなくて消去法でたまたまトップになるのでなく、生協においても優れた将を継続して組織的に育てることである。
 「法」は、組織の仕組みを整えることとしている。事業規模や社会の変化などによって仕組みは変革しなくてはならず、生協においても同じであり、巨額の赤字を垂れ流ししている店舗事業はもとより、共同購入や共済においても過去の成功体験にいつまでも安住しているわけにいかず、連帯組織である事業連合や日本生協連のあり方も含めて、まさに法の見直しが求められている。

ビジョン
 ビジョンをリーダーが持つべき智(知恵)とし、頂・情・略・七・闘をあげている。
 まず「頂」では、登る山を決め、次に山から見た景色をイメージせよと強調している。
 地域生協では、食の山頂を中心にして共済と福祉の山も決めているが、それぞれから観た下界をどのようにイメージしているのであろうか。
 「情」は情報収集のことで、経営の舵取りをするのに不可欠の項目である。生協においても同じく重要であり、組合員に関する情報はもとより、規模が大きくなればなるほど地域社会や暮らしに関する情報を把握し、経営に反映させなくてはならない。
 「略」は各種戦略の意味で、集めた情報をそぎ落として絞り込み、また勝った後のイメージを先に想像せよと教えている。これからは情報社会とも言われる時代に、生協としても必要な情報をいかに正確にかつ迅速に把握するのかポイントとなっている。
 「七」は七割を意味し、五分五分の時に戦いを仕掛ける者は愚かであり、勝率9割では手遅れになるとタイミングを説明し、生協の経営でも大切である。
 「闘」は、命をかけて闘い、闘って初めて事が成せると話している。保身だけでは、いずれ事業が破綻するのは世の常である。生協の過去の成功体験とも闘い、ときには泥をかぶってでも働くトップやマネジャーが求められている。
 
戦略
 戦略を第一人者たらんとする者の闘い方とし、一・流・攻・守・群をあげている。
 「一」では、NO1への強いこだわりとして、社会的な存在価値をアピールするためにも大切である。これまでの生協であれば、「食の安心・安全」との神話で良かったかも知れないが、もっと具体的で科学的なNO1を明示することである。
 「流」では、時代の流れを見極めるとし、農耕社会から工業社会になり、それが今や情報社会になりつつあると説明している。有限な資源を使い、大量生産・大量消費・大量廃棄という工業社会が限界に近づきつつある今日、生協もその流れを正確に理解しなくては社会的存在価値をなくしてしまう。
 「攻」は討って出ることで、営業・技術開発・M&A(合併と買収)・新規事業を紹介している。生協における食の事業でも、共同購入と店舗の業態だけでなく、インターネットスーパーや移動販売車など、新たな攻めが求められている。
逆の「守」は内部堅めであり、キャッシュフロー経営、コスト削減、投資の効率化、撤退、コンプライアンス、監査、報道リスクが当たるとしている。生協は社会的に善いことをしているとの認識のもとに甘えの構造が強く、経営責任の取り方であいまいなことが少なくないので守りは重要である。
 「群」は、戦略的シナジー(相乗効果)グループとして5000社の連携を目指し、そのためにもマルチブランドを創っていくとしている。生協においても共同購入・店舗・共済・福祉などの各業態を、事業の都合で縦割りにして経営するのでなく、組合員の暮らしや地域に合わせて、有機的に連携させたシナジー事業として展開させることだし、さらには医療生協や大学生協などとのコラボレーションも求められている。

将の心構え
 リーダーの心構えとして、智・信・仁・勇・厳が必要であるとしている。
まず「智」では、思考力・グローバル交渉力・プレゼン能力・テクノロジー・ファイナンス・分析力をあげている。権力を握った者が陥りやすい経験・勘・度胸による管理でなく、生協のリーダーにも智によるマネジメントが重要である。
 「信」では、同志的結合・パートナーシップ・信義・信用・信念を並べている。生協にすれば組合員や全職員との間だけでなく、全てのステークホルダーとの関係で信を大切にしなくてはならない。
 「仁」とは仁愛で、情け深い心で他人を思いやる意味である。人と人の結びつきで成立する協同組合の1つである生協にとっても、大切な要素である。
 「勇」では、大きな敵と戦う勇気と撤退の勇気を示している。資本主義の社会において、資本の論理に基づく株式会社でない事業組織が可能であると実践している生協にとって、大きな競争相手はたくさんあるし、これからも形を変えて出てくる。そうした相手と闘うには大きな勇気が必要で、また毎年増える巨額の赤字の店舗事業からは、撤退の勇気のいる生協が少なくない。
 「厳」では、誠の愛のため、時として鬼になれ、鬼になりきれない者はリーダーになれないとしている。他人よりも自らに厳しく当たることの大切さは、生協のリーダーにとっても同じである。

戦術
 最後の戦術では戦のやり方として、風・林・火・山・海をあげている。
 まず「風」は、まさに風のごとくのスピードである。「林」は「水面下での交渉」と説明しているように、波風を立てずに静かに事を進めることである。「火」では、「何が何でも革命的にやらなければならないときがあります」と、情熱をもつことの大切さを強調している。「山」では「ソフトバンクの事業領域は一貫して情報産業」と紹介し、不動の姿勢に触れていた。そうして最後の「海」では、「海のようにすべてを飲み込んだ平和な状態まで持っていって、初めて戦いは完結します」と結んでいる。
 それぞれの項目が、生協で経営するときの戦術として一考に値する。

生協に活かす
 こうした25文字は、生協に引き付けて考えてもそれぞれに意味がある。さらには経営だけでなく、組織を動かすことでは同じである労働組合にとっても噛み締める価値がある。あるテレビ番組で孫正義は、若者に向かって一番大切なこととして「志を高く」と強調していた。生協としての志の高さが、これまでになく求められている。
 同時に今回のアカデミアで学ぶべきことは、それぞれの生協のトップが、次のリーダー候補者に向けて熱くわかりやすく自らの言葉で語ることである。
  *コープソリューション 2010年11月号掲載

コープソリューション掲載記事8 地域へ拡がるさいたまコープの社会貢献

コープソリューション原稿8
地域へ拡がるさいたまコープの社会貢献    2010年11月20日 生協研究家 西村一郎                     

地域貢献の理念
 コープネットの一員であるさいたまコープは、以下の理念をネットグループで共有し、地域への社会貢献をすすめている。
 「CO・OP ともに はぐくむ くらしと未来
   私たちは、一人ひとりが手をとりあって、一つひとつのくらしの願いを実現します。私たちは、ものと心の豊かさが調和し、安心してくらせるまちづくりに貢献します。
   私たちは、人と自然が共生する社会と平和な未来を追求します」
 人口712万人で291世帯を有する埼玉県において、さいたまコープの組合員は82万人になっている。世帯加入率は平均で28.5%となり、中には50%をこえている地域もいくつかある。ここまで地域社会との関わりができてくると、宅配や店舗における商品の供給だけでなく、子育てや教育や環境保全などにおいて、地域社会から生協に求められる課題がいくつも出てくる。それらにチャレンジしているさいたまコープの取り組みは、他の地域生協においても参考になることが少なくないだろう。

地域ステーション
 ステーションとは、コープ商品は利用したいが条件が合わない人に、近くの商店などで生協の商品を受け取ることのできる仕組みである。地元の酒屋やクリーニング店などに、カタログ購入の取次ぎを委託してメイトになってもらい、希望する組合員にステーション購入してもらう。週に少なくとも1回は商品を預かってもらい、生協から届けた商品の受け取り・保管・渡しや注文書を預かってもらう。手数料は扱う商品代金の2%で、利用する組合員の募集は生協で行う。利用の受け入れ人数はメイトの都合にあわせ、またチラシを地域に配布するので店の宣伝にもなる。
 こうして地域の様々な店の協力によってステーションは、県内で1100ヵ所となっていて、県内コンビニ店の半分の規模になっている。
 さらに、公団住宅にかつてあった商店の跡地をステーションにして、商品の受け渡しだけでなく、組合員を含めた地域住民の集う場にする計画を具体化しつつある。小さな食品スーパーが撤退した公団住宅では、高齢化した住民はバスやタクシーを使って遠方まで買い物に出かけ、いわゆる買い物難民になっていることが多い。
 そこで団地内で必要な日用品を受け取り、あわせてお茶飲みもできて交流のできる場をイメージし、公団住宅の管理組織および団地自治会との協議をすすめている。こうした団地内のステーション・ふれあい「ひろば」(仮称)は、2010年12月に具体化を予定し、地域の組合員の協力も得て、食事会やふれあい喫茶を準備している。

地域への特別の配達
 重くて種類の多い商品の配達を特別に希望するケースが地域にはあり、それらにも応えている。
1つ目は、店から配達するあったまる便」である。10時から午後4時まで受け付け、店舗で購入した商品を1回100円で運ぶ。なお配達時間は、正午から午後5時の間を予定している。なおこの方式は、まえもって組合員と電話する時間の約束をしておき、電話を使った御用聞きへと切り替え中である。 
 2つ目は、学童保育の施設や保育園などへ、食材や菓子類の配達である。以前は学童保育のスタッフが、菓子などを選定して買出しをおこなっていた。その煩雑な作業を、生協法の改定によって生協で行うことが可能となり、現在は880ヵ所に配達し1施設あたり14000円の利用となっている。

市民団体の支援                                 
NPO法人や各種ボランティア団体や市民団体などを応援するため、2006年度に市民活動助成金制度をスタートさせた。「食・消費者の権利」「福祉、健康、子ども・子育て」「教育、文化、スポーツ」「環境保全」「人権、平和、国際協力・交流」「災害支援」の各分野の事業別に、これまで延べ181団体に約2,800万円を助成してきた。県内全域を対象の団体は50万円を上限とし、一地域での事業は10万円を上限にしている。
  
子育て支援
常設の親子ひろばであるCoccoルームは10会場で、地域子育て支援拠点は3市4ヵ所で受託し、事業所内託児所は4ヵ所で32名が登録している。また保育園、幼稚園、小学校、フェスタなどで、生協の共同購入に使用しているトラックを持ち込んで、子ども交通安全教室を開催し、子どもの交通事故防止に協力している。交通ルールだけでなく、子どもたちにトラックの運転台に座ってもらい、そこから見ることのできない死角のあることを体験してもらい、車に注意することを学んでもらっている。
また職員と組合員で編成する環境学習応援隊で、小・中学校への出前講座もおこなっている。

エコ循環米
店舗から出る食品残さを、県内にある「彩の国資源循環工場」で堆肥化し、米作りの肥料と再利用して、2009年度は埼玉県産米「彩のかがやきエコ循環米」の年間販売(約18,000袋)に取り組んだ。   (図)

二酸化炭素削減
家庭や店舗総菜部の使用済みてんぷら油を回収し、バイオディーゼル燃料(BDF)の生産を専門会社に委託している。精製・加工処理し、寒冷地対策も施した高品質のバイオディーゼル燃料100%を安定的に調達することができ、BDF車両82台を導入した。また、BDF車両の円滑な運行と導入拡大に向け、専用の給油スタンドも導入している。

地域の障がい者を雇用
障がい者の働く場の拡大をめざして、地域の社会福祉法人との業務提携を1985年開始し、物流部門で複数の障がい者が働くようになった。その後も交流を強め、1995年には埼玉県共同作業所連絡会とも協定を結び、障がい者雇用を積極的に進め、2006年度は5つの養護学校から12名の研修生を迎え、卒業後の2007年に2名が就職した。2009年度は10の特別支援校(旧養護学校)から、20名の研修生を受け入れている。2009年の障がい者雇用率は年平均3.04%となり、法的雇用率1.8%を大きく上回って推移している。
 なお2009年度末(10年3月10日)の障がい者就労者は51名で、正規4名とパート・アルバイト47名になり、健常者と同様の給与体系で働いている。
  
たすけあいの活動
組合員が中心となって生協の施設などを活用し、地域における人と人の交流を応援している。1つが誰でも参加できる「ふれあい喫茶」で、17ヵ所において月に1回開催し、コーヒーや紅茶や手作りのケーキなどを出して、楽しい団欒の場を設けている。他には高齢者向けの「ふれあい食事会」があり、9ヵ所において月に1回開いている。季節に合わせた献立の工夫だけでなく、参加者がゆったりとおしゃべりする時間や、歌ったり時には健康チェックをするなどの工夫もしている。
(写真)

地域社会の一員としての責任発揮
 こうして地域社会に生協として関わることの目的や意味について、さいたまコープ佐藤利昭理事長にたずねた。
 「私たちのありたい姿は、大多数の県民が生協の何らかの事業や活動に参加していることで、誰もが安心して暮らすことのできる地域づくりの担い手になることです。そこで社会の一員としての生協の責任と役割をより発揮するため、社会貢献活動推進委員会で議論を深めてきました。その結果、食と商品、子ども・子育て応援、環境、くらしの4分野での課題を明らかにし、事業と運動の両面で関わりを強めつつあります」
 誰もが暮らしやすい地域づくりに向けて、さいたまコープの挑戦が確実に拡がっている。

コープソリューション掲載記事6 総菜ロースカツ事故

 
総菜ロースカツ事故
2010年8月 3日
                         生協研究家 西村 一郎
はじめに
 2010年3月に発生し総菜ロースカツ事故は、該当する神奈川県や静岡県だけでなく、マスコミによって全国に報道され、生協内外で話題となった。中にはインターネットを経由し海外まで情報が流れ、その深刻さがうかがえる。
 話題の広がりの背景には第一に、生協やコープの名称が全国的に認知され、何かトラブルが発生すると該当生協だけでなく、全国の生協も同じと受け止める人が多くなっている。
 第二に、ギョーザ事件のときと異なり、今回は100%が生協内部に原因があり、それだけにストレートな批判や関心が生協に集中した。
 管理責任の母体であるユーコープ事業連合では、「店内調理品ロースカツの不適切な扱い」と称している今回の事故から、いったい全国の生協は何を学び教訓化することが大切であろうか。首都圏のある生協では一斉に職場会議を開催し、今回の問題を自分の生協に引き付けて、何が問われているのか1時間余り議論している。他生協にも与えた社会的ダメージからすれば当然の対応だろう。
 しかし、6月に開催となった日本生協連の総会の場で、ユーコープからのお詫びを含めてこの件に関連した発言はなかった。全国の生協で教訓化すべきことを探ってみた。

経過
 3月28日 コープかながわのE店で、大感謝祭で売れ残ったチルドのロースカツ原料を冷凍保存し、翌日からカツ丼やカツ重にして提供した。
 4月24日 組合員から「購入したカツ重を食べたら、酸っぱい味がして吐き出した」との連絡があった。店長は店内のカツ重を全て撤去し、組合員宅を訪ねて謝罪と事実確認をした。
 4月26日 店長が当該の保健福祉センターへ報告書を提出し、5月6日に保健福祉センターからE店に調査があった。
 5月7日 読売新聞朝刊で「コープかながわ廃棄分トンカツ販売」と報道。E店以外にコープかながわで2店、コープしずおかで3店でも、残った同じ食材を翌日に加工して販売していたことが判明した。
 5月8日 ユーコープ管内の62店で、店内加工の総菜の営業を5月21日まで自粛した。(E店は工事のため5月23日まで)
 6月8日 組合員改善委員会から「信頼回復のための第一次提言」が提出された。

何が問題か
 第一に、食品衛生法違反である。同法によれば加工した食品を販売するときは、商品の原料やアレルゲンなどの表示を義務付けられているが、それらがなされていなかった。食品衛生法は、食品を扱う者にとっては基本的な社会ルールであり、これに違反したことは厳しく責任を問われて当然である。
 第二に、原料の消費期限をその日だけと設定した今回のロースカツは、閉店後に全て処分しなくてはならないが、それをしなかった内規違反である。消費期限の設定が厳しすぎるのではとの意見はあるが、問題だと考えるのであれば提案し組織的に議論して改正すべきであり、それまでは内規に準じることが組織人の務めである。
 第三に、発注量の決め方である。E店の総菜責任者は740枚を予定したが、バイヤーが1100枚を主張して上積みし、結果として大量の売れ残りを発生させた。現場と本部の調整役でもあるスーパーバイザーの意見も採用されていないし、店の総責任者である店長の確認も得ないままの実施であった。発注数の妥当性や、本部と現場におけるコミュニケーションとマネジメントが不充分であった。
 第四に、事実確認の遅れを含めた危機管理の弱さである。「不適切な扱いをした」6店を特定できたのは、3度にわたる全店調査の結果5月7日夕刻のことであった。なおE店以外の5店は、残った翌日から油で揚げロースカツとして販売していた。バイヤーとスーパーバイザーの関係や、店舗事業本部と品質保証本部の連携もそうだし、さらには事業連合と会員生協役員との連携が充分でなく、また保健福祉センターやマスコミへの対応も不充分さを残した。厚生労働省や消費者庁までが関心を示した事故であったが、当初はそうした認識を生協の組織として共有化できていなかった。
 第五に、2008年のギョ-ザ事件を受け信頼回復のため改善したことが、今回は役に立たなかった。組合員のために仕事をすると明記した「倫理綱領」や「自主行動基準」は、全ての職員が学んだはずであるが活かされてなく、まるで神棚に飾ったお札であった。
また生協にとってダメージになる法令違反や内規違反については、仕事のラインで相談できなければ、組織の中枢へ連絡するコンプライアンスコールはあるが、6店でこれを使った職員は一人もいなかった。さらに対策本部を設置したとき、事務局の機能を果たすリスクマネジメントチームの配置を定めているが、その機能を全うすることはなかった。
食中毒に至らなかったことは不幸中の幸いであるが、日頃の仕事の仕方や初期対応をもう少しきちんとしていれば、ここまで生協のダメージにつながることもなかっただろう。

全国の生協で教訓化すること
 当然のことながら第一に法令や内規の遵守である。法令とは社会の基本的なルールであり、社会の一員としてこれからも生協が事業を展開していく限り、法令を守ることは絶対条件である。なぜそのような条文になっているのか考えても余り意味がなく、ただ遵守することである。今回の事故で触れた食品衛生法以外にも、労働法や消防法などもあれば、さらには地方自治体の条例がいくつも生協の事業に関連している。
 しかし、いくら法令遵守を全職員に強調しても、今回のような事故が起きる。ではどうするか。点検体制の一つに購入する組合員が、「法令との関係でおかしい」と感じてすぐに生協へ連絡することができればベストである。少なくとも今回のような事故が1カ月近く続くことはなかっただろう。
 そのためにも生協が、抽象的に法令遵守を強調するだけでなく、具体的に法令や条例との関係でどうしているのか組合員にわかる表示をすることも効果的である。
 また作業の指示や禁止事項などを具体的に定めた内規のマニュアルは、全職員の仕事の基準になるので、これを全職員が守ることは重要であるし、法令と同じで組合員の点検する仕組みができれば最高である。
 ところで法令と異なるのは、内規に沿って展開してみて不合理と感じることがあれば、組織内で議論して修正が可能なことで、たとえ事業連合で決めた内規であっても同じである。
 しかし、法令や内規の遵守を強調し点検する仕組みだけで、全ての違反を外からの形で防止することは残念ながら難しいだろう。内から各自の仕事や職場のあり方を正す組織風土作りも重要になる。
 そこで第二には、一人ひとりの仕事の先に組合員の暮らしをイメージする組織文化作りであり、職場や分会から創っていくことが大切で、中堅幹部の役割が特に大きく、理事会だけでなく労組にとっても大きな課題であると私は考える。本部から経営数字でのつめがきつくなるほど、ややもすると仕事の先に経営数値しか見えなくなる。供給高と剰余を同時に確保すことができれば経営的には一番良いが、現実はそう簡単ではない。供給と剰余の追及は矛盾することが多く、安易に解決しようとすると今回のように法令や内規の違反につながりやすい。
 そうではなく各自の仕事の先に、組合員の暮らしを具体的に想像することができれば、今回のような組合員の期待を裏切る行為はなくなる。自らの提供する食品やサービスを利用することによって、組合員の暮らしはどのように豊かになるのか。そうしたイメージを持つ組織文化を確立することができれば、組合員の暮らしを犠牲にしてまで経営数字を守る事故はなくなるだろう。
 これらを含めて第三には、職員満足度を高めるトップマネジメントが決定的である。組合員満足を高めるためには、個々の組合員に触れている全職員の満足を高めることが必要不可欠であるが、その職員満足が不充分だと離職するか不正につながる危険性が高まる。
 ところで職員が満足する1つは、各自が提供する商品やサービスを組合員や地域などから評価されることである。そうした条件を作る最高責任を各生協のトップは持ち、事業連合や日本生協連といった連帯組織は、あくまで側面から支援することだろう。
 今回の総菜ロースカツ事故から、全国の生協が足元を固めるため学ぶことは少なくない。
 

コープソリューション掲載記事5 福井県民生協のネットワーク事業戦略

福井県民生協のネットワーク事業戦略         2010917
                           生協研究家 西村 一郎
福井県民生協を訪ねて
 1978年創業の福井県民生協は、2009年度に組合員が12万8945人となり、世帯加入率はすでに46.7%と全国的にも高い水準になっている。食品の県内販売シェアは7.3%にもなり、県内第2位である。
 2007年度に日本経営品質賞を受けた福井県民生協は、「組合員の満足と、地域社会のために」を基本理念とし、使命は「食の安全とくらしの安心で組合員へのお役立ち」と位置付け、「組合員と職員が力をあわせて、食の安全、暮らしの安心、新しいビジョンづくりを進めましょう」をみんなのスローガンとし、そのバランスの良い経営が高く評価された。
 こうした経営理念を事業へ着実につなげ、2009年度の各事業部門は下記のように伸張させている。
 総事業高    196.3億円 前年比 101.3%
   無店舗事業 116.9億円      98.4%
   店舗事業   70.7億円     110.6% SM6店、09年度に1店
  共済事業     6.2億円     105.2%
  福祉事業     6.0億円     122.7%
 世界的な金融不況による日本経済の落ち込みや、県民の人口減の中での伸張である。一般的な取り組みだけでは、なかなか達成できる数値ではない。福井県民生協の経営戦略におけるキーワードの1つがネットワーク事業であり、その実態や課題についてたずねた。

ネットワークの理念
 福井県民生協では、事業にせよ運動にせよ、生協内の縦割りの業態や部署だけで対応するのでなく、組合員の暮らしや地域に目線を当てた協力体制を組み、さらには行政やNPOとも連携し、社会的な役割分担を担っている。
竹生(たこう)正人専務理事から、ネットワーク事業の位置付けについて説明を受けた。
「私たちの組織がめざす理想的な姿は、組合員の満足と地域社会のために、『食と福祉と助け合い』の事業と活動のネットワークによるシナジー(相乗)効果を発揮し、健康長寿で安全・安心な福井づくり、組合員と職員の協働の力で高い志を持って挑戦し続けることにしています。
食の分野では無店舗・店舗・移動店舗の3つの事業があり、福祉分野では高齢者介護で訪問介護など7つの事業があり、また子育て支援でひろばなど4つの事業、助け合いの分野では女性対象共済など3つの事業があり、これら17の事業のネットワークによって、組合員へのお役立ち度を向上させることです」
こうした事業をネットワークすることは、以下のように「福井県民生協の大切にしたい考え方」にも反映されている。
(1)事業ネットワークの展開と進化をとおして組合員満足の最大化をめざします
(2)事業ネットワークを支える食の安全と暮らしの安心システムの構築をめざします
(3)事業ネットワークの展開を支える人財の育成を進めます
(4)事業ネットワークを広げる経営の革新に取り組みます
これら事業ネットワークの中核をしめるのは食の分野であり、地域によって表のように3つのエリアに区分しドミナント形成を進めようとしている。
 表 食分野の事業ネットワークとドミナント形成


区分特性
地域浸透度(県民加入率)
エリア
ドミナント1
店舗出店エリア(都市部)
70~90%
6→10商圏単位
ドミナント2
移動店舗展開エリア(郡部、中山間地域、海岸地域)
50~70
3→15コース単位
ドミナント3
無店舗展開エリア
40~50
全体エリアの40%へ

ドミナント1には、福祉分野の介護事業と子育て事業を対応させ、ドミナント2では介護のみで、ドミナント3に福祉分野は含めてない。もちろん全てのドミナントに共済を対応させ、こうして地域の条件に応じたネットワーク事業を予定している。

組合員のレベルに応じた個別の対応
竹生専務の話は続く。
「以前は事業の都合で分けた業態別に組合員の利用をみていましたが、1人の組合員が年間で生協において利用する総額によるグループ分けをしました。年間の利用金額によって10万円台はステップ10、平均的な20万円台はステップ20、30万円台はステップ30、40万円台はステップ40、そして高額な50万円以上はステップ50とし、組合員を抽象的に全体として捉えるのでなく、一人ひとりの動向を把握して生協の対応を考えることにしたのです。
この区分でみると、ステップ30以上のコア組合員は、人数構成比では21%ですが供給高では59%をしめ、経営的にもこの組合員に支えられています。つまり一律の対応でなく、コア組合員を増やすことが大切なわけです。ステップ40や50の組合員は、生協への信頼や参加意欲が強く、高い利用を維持しつつ利用の参加から活動や運営への参加へとすすめます。ステップ30が利用では要注意で、店舗または無店舗の利用が減少すると、すぐにデータにシグナルが出て地域の担当者が訪問するようにしています。一番多いステップ20では、30へと引き上げることがポイントで、定時職員を中心にした20名の組合員サポーターが対応しています」
つまり年間の利用高に応じて割り戻し率が増え、20万円未満の通常還元率よりもステップ20で0.15%、30で0.30%、40で0.6%、50で1.0%とそれぞれ加算されるから、利用の高い組合員にとって魅力的である。
各自の合計の利用高は月単位で管理し、組合員サポーターがその組合員を訪ね、商品や店舗のサービスだけでなく、日ごろの暮らしで困っていることを聞いている。たとえば組合員の家族に高齢の方がいて、何か介護で困っていることがあれば、生協の介護事業を紹介することもできる。こうしてネットワーク事業による相乗効果を高めている。
さらにコアな組合員をさらに広げるため、福井県民生協の中に事業ネットワーク本部を2008年に設立し、そこに店舗や無店舗や福祉などといった各業態をぶら下げる組織とした。
 しかし、組合員の活動と生協の事業は、別々に存在するのでなく密接に関連している。そこで事業ネットワーク本部と組織ネットワーク本部の連携をより強めるために、2009年に地区支援本部を新設している。ちなみに福井県内を3つの地区に分割し、福井市や県北を中心とした第一地区、鯖江市など南部の地域を中心とした第二地区、敦賀や若狭を中心とした第三地区で運営している。
 ネットワーク事業を活かすためにも、この地区単位での運営を福井県民生協は重視している。全体の方向を一本化して打ち出すことはできても、地域によって食文化や行政の動きが異なることもあるし、生協が経営する店舗の有無の違いもあれば、なによりも組合員の暮らしに違いがある。このため以前の一律的な本部主導型から、ネットワークを活かして地域への小まめな対応を可能にする地区主導型へと変更している。

 移動店舗事業の挑戦
 2009年からスタートさせた移動店舗は第3の供給事業と位置付け、福井県民生協における組合員と地域社会への新たな貢献を拡げつつある。3tと2tのトラックを使って荷台に冷蔵庫や冷凍庫も設置し、肉・魚・乳類販売の許可をとり、近くの店舗から生鮮商品を積み込んで店舗の商圏外にいる組合員を対象に、1台で1日に10から15ヵ所を移動し、運転手とレジ係りの2名で販売している。
 ここでの目的は、第一に組合員満足度の向上であり、そこでは①店のない地域で店の商品を供給する、②併用組合員や組合員の拡大、③買い物が不自由な高齢者への支援がある。第二に職員満足度の向上で、無店舗や店舗や福祉事業を具体的に推進する職員育成の場としている。第三に経営への貢献であり、初期投資が少ないので事業直接剰余は2年目で黒字にし、3年目には経常剰余率2%を予定している。
 こうした移動店舗事業の車は、2009年の3台から2010年は8台とし、2014年には20台で週に9000名の利用を目標にしている。店舗と無店舗事業の間に位置する新たな業態であり、今後の展開が楽しみである。