2011-02-09

コープソリューション掲載記事9 「みやぎ生協に期待すること」

「みやぎ生協に期待すること」 ー五方良しの経営めざしー        


          生協研究家  西村一郎
はじめに
 みやぎ生協労組主催のシンポジウムが2010年10月23日に仙台で開催となり、そのときパネリストの一人として参加させてもらった。そのとき私が報告した要旨が以下である。県民世帯の実に7割近くと全国一組織しているみやぎ生協であるが、店舗事業の赤字に代表される厳しい経営が続き、労組としても経営を含めた生協の在り方を議論しようとなった。そこでここまで大きく成長してきたことは高く評価しつつも、原点に立ち返ってこれからの進むべき方向を考えることが必要になっている。他の生協にも当てはまることが少なくない。

問題意識
 第一に、生協内に広がる思考停止である。増える大企業病やヒラメ職員と表現してもいい内容で、本部や上司からの指示待ち職員が増えている。過去の成功体験に安住することによって自己変革せず、かつ生協人同士の馴れ合いから「集団責任は無責任」な状態も一部に現れている。「大きいことは良いこと」として、いくつかの理事会や労組もしゃにむに合併を追及していることに私は疑問がある。規模の拡大によるマスメリットはある反面で、組合員の参加やガバナンスのあり方などで課題も多い。また中期計画などの方針書はきれいにまとめてあるが、それで職員や組合員がどう参画すれば良いのか不明確で、絵に描いた餅となっていることが少なくない。
第二に、変革の主体は職員や組合員の一人ひとりの内部にあることである。明治時代の初期に教育と訳したedukationの語源には、内部から引き出す意味があり、人々の発達する力は各々の内部にある。それを確信せずに、ごく一部のトップや外部のコンサルタントだけの力で変革しようとしても無理である。たとえりっぱな計画書を作成してトップダウンで実行させようとしても、職員の主体性を育むことにはならず、全ての職員が一丸となって実践することにつながらず、充分な成果は得られないことは、たとえばこれまでの日本生協連の作成したいくつものビジョンの経過を見れば明らかであろう。
 第三に、機能の集中と分散の使い分けである。たしかにシステムやバイイングなどの機能は、集中させることによって効果を高めることができる。しかし、地域社会との関係における権限などで、逆に分散させることの方が大切なものもある。
 このようにして、みやぎ生協だけでなく他の生協も、そのあり方の根底に関わる部分から見直さなくてはならない局面にきているとみてよいだろう。

原点回帰と動向把握
 こうした局面に立ったときに、すべきことは原点回帰と動向把握である。
 まず生協の原点では、生協法の第一条で明記してある「国民生活の安定と生活文化の向上」がある。みやぎ生協の原点としては、「わたしたちは、協同の力で、人間らしいくらしを創造し、平和で持続可能な社会を実現します」(めざすもの)がある。これらに対応するみやぎ生協労組の原点が問われている。
 次に動向把握である。一般社会として世界で、日本で、宮城県で、そして地域において、経済や人々の暮らしは、いったいどう動いているのかの認識することである。格差社会が拡がる中で、一人ひとりの自立や互助を大切にする生協が、社会からますます求められている。
 
暮らしは 
第1に高齢化である。生協組合員の平均年齢は2009年で53.1歳となっており、これは国民の平均年齢である44.3歳より8.8歳も高く、一般社会以上に生協の組合員における高齢化が進行している。同時に高齢化は、認知症の増加にも連動する。
第2は世帯の変化である。社会一般では単身者が増加して31%と一番多くを占めているが、生協ではわずか6%でしかない。逆に夫婦と子どもの世帯は、社会で28%に対して生協では46%をも占めている。
 第3は過疎化である。大都市への集中だけでなく、地方の県内でも県庁所在地への人口が集中し、山間地や島だけでなく旧市街地や古い団地などでも多様化した限界集落がすすみ、地域格差が拡がっている。
第4に買い物弱者とか買い物難民と呼ばれる人たちの増加である。交通の不便な山間地や島だけでなく、都心や中心市街地などで地元食料品店や日用品店の撤退した地区を意味する食の砂漠Food Desertが拡大しつつある。
こうした暮らしの変化の中で、たとえば移動販売車が走っている地域もある。鳥取県の江府町(こうふちょう 3,316人)では演歌を流しつつ1日に10カ所を回り、 1分で開店し30分間で生鮮を含め700種類を販売している。これに学び福井県民生協では、現在8台の車を走らせて地域から好評である。  

みやぎ生協職員の実態
2008年に生協総研で実施した「生協における働き方研究会」の調査では、以下のような数値でみやぎ生協における職員の実態が浮き彫りとなった。

第1に残業の多さである。正規の男性では、月に60時間~80時間が9.8%で、月80時以上でも7.3%いる。パートの女性は、毎日が14.8%と「ほとんど毎日」が24.1%と恒常化している。また委託では、月40時間~60時間で17.5% 80時間以上でも5.3%いる。
第2に仕事の満足感は、パートの女性で72.2%と一番高く、正規の男性では56.1%、委託では21.1%と低くなっている。 

第3に生協の将来ビジョンについてである。ビジョンについては、正規の男性で78%と女性の67%が、パートの女性の54%と委託の男性の35%が知っている。
 その評価では、生協全体でビジョンに向かっていると思うのは、正規の男性で37%、女性で67% パートの女性で54%である。職場の運営にビジョンが活かされていると思うのは、正規の男性32%と女性33%、パートの女性52%と低い。またビジョンが働きがいになっていると思うのは、正規の男性は39%、女性は67%、パートの女性は57%と低い。
このため生協で働くことを子どもや知人に薦めると答えた人は、正規の男性で24%、女性で50%、パートの女性で44と少ない。

経営哲学の確立
近江商人の経営哲学である「三方良し」(買い手良し、世間良し、売り手良し)になぞらえれば、生協の経営哲学においては、先の3つに働き手と作り手を加えた「五方良し」にすることが大切ではないだろうか。
第1に、買い手である組合員一人ひとりの暮らしを応援することである。現行の食や共済の提供だけでなく、介護や子育てや健康・医療での生協の役割発揮が期待されている。また組合員の主体性を高め自立を育むため、誰もが参加できる場の提供や、地域づくりへ貢献し、人と人のネットワークを無数に拡げることである。
第2に、作り手である生産者は、生協のパートナーとして大切である。高齢化した農家の平均年齢は2009年65.3歳となり、65歳以上は61%の177万人もいるから、このままでは農業の担い手が5年後には激減する。そこで生協による生産への関与で、大小の生協版農場を具体化してはどうだろうか。
第3に、働き手である職員の満足である。そこには、①仕事の満足としてやりがいや成長感や自分らしさや認知、②職場の満足として課題に対する姿勢や安心感や一体感、③上司の満足として判断や業務指示の信頼やコミュニケーション、④生協の満足としてトップへの信頼や人事・労働環境の満足がある。ところで
生協における働きがいの3要素として、自らの意思で考え判断して主体的に働くことや、協同組合としての生協や職場や仕事であること、そして組合員からの感謝や励ましがある。
 第4に、世間良しとしての社会貢献である。組合員の暮らしを応援するため
生協版社会インフラを創り、食、健康・医療、保障、仕事、介護、子育てなどで生協ならではの役割発揮である。暮らしを応援する商品やサービスの提供はもとより、事業ネットワーク   によって複数の事業で地域に応じて展開し、また班をコミュニティの基礎単位として再構築し、こうして地域作りへ貢献することである。
第5に、売り手としての生協の経営である。組合員や地域の求める商品やサービスの開発、本部経費の削減、連帯組織では事業連合や日本生協連は裏方に徹すること、店舗事業の改革では原則の徹底を図り、組合員による事業参加や人材育成では、特にミドルマネジャーの育成が急務となっている。
 (コープソリューション 2011年1月号掲載)




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