2011-02-09

コープソリューション掲載記事6 総菜ロースカツ事故

 
総菜ロースカツ事故
2010年8月 3日
                         生協研究家 西村 一郎
はじめに
 2010年3月に発生し総菜ロースカツ事故は、該当する神奈川県や静岡県だけでなく、マスコミによって全国に報道され、生協内外で話題となった。中にはインターネットを経由し海外まで情報が流れ、その深刻さがうかがえる。
 話題の広がりの背景には第一に、生協やコープの名称が全国的に認知され、何かトラブルが発生すると該当生協だけでなく、全国の生協も同じと受け止める人が多くなっている。
 第二に、ギョーザ事件のときと異なり、今回は100%が生協内部に原因があり、それだけにストレートな批判や関心が生協に集中した。
 管理責任の母体であるユーコープ事業連合では、「店内調理品ロースカツの不適切な扱い」と称している今回の事故から、いったい全国の生協は何を学び教訓化することが大切であろうか。首都圏のある生協では一斉に職場会議を開催し、今回の問題を自分の生協に引き付けて、何が問われているのか1時間余り議論している。他生協にも与えた社会的ダメージからすれば当然の対応だろう。
 しかし、6月に開催となった日本生協連の総会の場で、ユーコープからのお詫びを含めてこの件に関連した発言はなかった。全国の生協で教訓化すべきことを探ってみた。

経過
 3月28日 コープかながわのE店で、大感謝祭で売れ残ったチルドのロースカツ原料を冷凍保存し、翌日からカツ丼やカツ重にして提供した。
 4月24日 組合員から「購入したカツ重を食べたら、酸っぱい味がして吐き出した」との連絡があった。店長は店内のカツ重を全て撤去し、組合員宅を訪ねて謝罪と事実確認をした。
 4月26日 店長が当該の保健福祉センターへ報告書を提出し、5月6日に保健福祉センターからE店に調査があった。
 5月7日 読売新聞朝刊で「コープかながわ廃棄分トンカツ販売」と報道。E店以外にコープかながわで2店、コープしずおかで3店でも、残った同じ食材を翌日に加工して販売していたことが判明した。
 5月8日 ユーコープ管内の62店で、店内加工の総菜の営業を5月21日まで自粛した。(E店は工事のため5月23日まで)
 6月8日 組合員改善委員会から「信頼回復のための第一次提言」が提出された。

何が問題か
 第一に、食品衛生法違反である。同法によれば加工した食品を販売するときは、商品の原料やアレルゲンなどの表示を義務付けられているが、それらがなされていなかった。食品衛生法は、食品を扱う者にとっては基本的な社会ルールであり、これに違反したことは厳しく責任を問われて当然である。
 第二に、原料の消費期限をその日だけと設定した今回のロースカツは、閉店後に全て処分しなくてはならないが、それをしなかった内規違反である。消費期限の設定が厳しすぎるのではとの意見はあるが、問題だと考えるのであれば提案し組織的に議論して改正すべきであり、それまでは内規に準じることが組織人の務めである。
 第三に、発注量の決め方である。E店の総菜責任者は740枚を予定したが、バイヤーが1100枚を主張して上積みし、結果として大量の売れ残りを発生させた。現場と本部の調整役でもあるスーパーバイザーの意見も採用されていないし、店の総責任者である店長の確認も得ないままの実施であった。発注数の妥当性や、本部と現場におけるコミュニケーションとマネジメントが不充分であった。
 第四に、事実確認の遅れを含めた危機管理の弱さである。「不適切な扱いをした」6店を特定できたのは、3度にわたる全店調査の結果5月7日夕刻のことであった。なおE店以外の5店は、残った翌日から油で揚げロースカツとして販売していた。バイヤーとスーパーバイザーの関係や、店舗事業本部と品質保証本部の連携もそうだし、さらには事業連合と会員生協役員との連携が充分でなく、また保健福祉センターやマスコミへの対応も不充分さを残した。厚生労働省や消費者庁までが関心を示した事故であったが、当初はそうした認識を生協の組織として共有化できていなかった。
 第五に、2008年のギョ-ザ事件を受け信頼回復のため改善したことが、今回は役に立たなかった。組合員のために仕事をすると明記した「倫理綱領」や「自主行動基準」は、全ての職員が学んだはずであるが活かされてなく、まるで神棚に飾ったお札であった。
また生協にとってダメージになる法令違反や内規違反については、仕事のラインで相談できなければ、組織の中枢へ連絡するコンプライアンスコールはあるが、6店でこれを使った職員は一人もいなかった。さらに対策本部を設置したとき、事務局の機能を果たすリスクマネジメントチームの配置を定めているが、その機能を全うすることはなかった。
食中毒に至らなかったことは不幸中の幸いであるが、日頃の仕事の仕方や初期対応をもう少しきちんとしていれば、ここまで生協のダメージにつながることもなかっただろう。

全国の生協で教訓化すること
 当然のことながら第一に法令や内規の遵守である。法令とは社会の基本的なルールであり、社会の一員としてこれからも生協が事業を展開していく限り、法令を守ることは絶対条件である。なぜそのような条文になっているのか考えても余り意味がなく、ただ遵守することである。今回の事故で触れた食品衛生法以外にも、労働法や消防法などもあれば、さらには地方自治体の条例がいくつも生協の事業に関連している。
 しかし、いくら法令遵守を全職員に強調しても、今回のような事故が起きる。ではどうするか。点検体制の一つに購入する組合員が、「法令との関係でおかしい」と感じてすぐに生協へ連絡することができればベストである。少なくとも今回のような事故が1カ月近く続くことはなかっただろう。
 そのためにも生協が、抽象的に法令遵守を強調するだけでなく、具体的に法令や条例との関係でどうしているのか組合員にわかる表示をすることも効果的である。
 また作業の指示や禁止事項などを具体的に定めた内規のマニュアルは、全職員の仕事の基準になるので、これを全職員が守ることは重要であるし、法令と同じで組合員の点検する仕組みができれば最高である。
 ところで法令と異なるのは、内規に沿って展開してみて不合理と感じることがあれば、組織内で議論して修正が可能なことで、たとえ事業連合で決めた内規であっても同じである。
 しかし、法令や内規の遵守を強調し点検する仕組みだけで、全ての違反を外からの形で防止することは残念ながら難しいだろう。内から各自の仕事や職場のあり方を正す組織風土作りも重要になる。
 そこで第二には、一人ひとりの仕事の先に組合員の暮らしをイメージする組織文化作りであり、職場や分会から創っていくことが大切で、中堅幹部の役割が特に大きく、理事会だけでなく労組にとっても大きな課題であると私は考える。本部から経営数字でのつめがきつくなるほど、ややもすると仕事の先に経営数値しか見えなくなる。供給高と剰余を同時に確保すことができれば経営的には一番良いが、現実はそう簡単ではない。供給と剰余の追及は矛盾することが多く、安易に解決しようとすると今回のように法令や内規の違反につながりやすい。
 そうではなく各自の仕事の先に、組合員の暮らしを具体的に想像することができれば、今回のような組合員の期待を裏切る行為はなくなる。自らの提供する食品やサービスを利用することによって、組合員の暮らしはどのように豊かになるのか。そうしたイメージを持つ組織文化を確立することができれば、組合員の暮らしを犠牲にしてまで経営数字を守る事故はなくなるだろう。
 これらを含めて第三には、職員満足度を高めるトップマネジメントが決定的である。組合員満足を高めるためには、個々の組合員に触れている全職員の満足を高めることが必要不可欠であるが、その職員満足が不充分だと離職するか不正につながる危険性が高まる。
 ところで職員が満足する1つは、各自が提供する商品やサービスを組合員や地域などから評価されることである。そうした条件を作る最高責任を各生協のトップは持ち、事業連合や日本生協連といった連帯組織は、あくまで側面から支援することだろう。
 今回の総菜ロースカツ事故から、全国の生協が足元を固めるため学ぶことは少なくない。
 

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