2017-05-12

鳥取県の作業所のゆめ工房を訪ねて

 5月8日から11日にかけて、鳥取県は米子市の南に位置する伯耆(ほうき)町を訪ねた。2011年3月の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた女川町で、永年パンやカリントウの製造をしていた阿部雄悦さん(76歳)に会うためである。女川で再建したかったが物理的にそれができなかった阿部さんは、縁があって震災直後に鳥取のここへ移り、再び障がい者と一緒になってパンやカリントウを作りはじめた。震災前から女川で販売するだけでなく、全国各地で障がい者が働く作業所など40カ所へ生地や商品を卸しており、1日も早く再建することが求められていたからである。
 大山のふもとの2か所で、元JAの施設などを改造し、カリントウやパンの製造の他に、サンマやワカメなどの加工場や、さらには地域の方たちにも自社商品を美味しく食べてもらうため小さな居酒屋「おらほや」も併設して運営している。
 阿部さんが開発した食品保存の酵素「夢21」を使い、カリントウやパンは冷凍生地から障がい者でも美味しく作ることができ、処理した水産物は数年でも保存させてから刺身で食べることができる。これまでに140種類ものカリントウを作り、材料には女川のサンマやワカメもあれば、鳥取の長いもやどじょうやしじみもある。
 阿部さんの凄いのは、そうした商品の開発と同時に、障がい者が働く作業所を2か所も作り、ゆめ工房21は労働契約をむすばない障害者就労継続支援B型事業所でカリントウを作り、ゆめ工房は労働契約をむすび最賃法を守る障害者就労継続支援A型事業所ではパン作りや水産物の加工をしている。このためBからAに移るなど障がい者の意欲と能力に応じて自立を促し、月給10万円以上を受け取るようになったある若い女性は、一人でアパート暮らしをし、また通勤用に車を買ったと嬉しそうに話していた。
 「震災後にここに来て、家族が増えましたよ」
 楽しそうに話す阿部さんの笑顔が印象的だった。
 パン屋の丁稚奉公から自らを鍛え上げた阿部さんは、障がい者福祉や社会福祉などの理屈から
でなく、目の前に困っている人がいれば素直に自分にできる手を差し伸べて支えてきた。そのことによって金では味わうことのできない人間的な豊かさに触れてきたことを喜んでいる。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿